両端の変位を拘束された梁(両端支持梁、ブリッジ)の内部に圧縮性の応力を加えると、中央部分が左右のどちらかに振れて、そこで安定位置を保ちます。この現象は座屈(ざくつ)とよばれ、MEMS型の不揮発性メモリの原理として知られています。DRAM、SRAM、磁気メモリなどに代表される近年のメモリ素子の記録密度は急速に増大しているので、これらよりも簡単な構造で、かつナノ寸法にまで小型化できるスケーリング(縮小可能性)をもったデバイス原理が開発できれば、産業界に大きなインパクトを与えることができます。
本研究では両持ち梁の座屈メモリ効果の原理検証として、シリコン熱酸化膜の残留圧縮応力を利用した素子を製作し、その特性を評価しました。梁の幅が細いほど、座屈状態を変えるために外部から加える力は小さくなります。そこで、電子ビーム露光層を用いたリソグラフィーによりパタニングを行いました。
左の電子顕微鏡写真は、座屈梁の試作品です。梁の長さを8ミクロンから20ミクロンの間で変化させて、座屈変位との関係を測定するためのものです。また、状態の読み出しには、電気的接触(抵抗)または静電容量を用いることを想定しています。
梁の座屈を左右(図面では上下方向)にスイッチする手段として、両持ち梁近傍に配置した静電駆動電極への電圧印加を用いました。梁の中央部分ではなく、両脇の近傍に静電引力を発生させることにより、1次の座屈モードから2次の座屈モードを経て、比較的低いエネルギ障壁を越えて2つの安定状態の間をスイッチすることができます。
幅80〜100ナノメートルの両持ち梁の座屈変位を計測した結果です。長さ20ミクロンのときに、0.8ミクロンの変位が得られています。今後、EBリソグラフィーの解像度を改善し、かつ、より薄い構造を用いることにより、ビットあたりの占有面積を大幅に低減する方法を検討します。
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