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#include(What is MEMS?)


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*精密機械加工とMEMSプロセスの違い [#kdfb5a53]
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MEMSには、従来の精密機械の延長上にあるものと、半導体プロセス技術を基盤にしたものの2種類があります。当研究室では、後者の半導体プロセスを用いたMEMSデバイスを取り扱っています。精密機械加工と半導体プロセスには大きな違いがあります。すなわち、前者では、目的に応じた最適な材料を最適な方法で加工してパーツを形成し、そのなかから、検査に合格した最適なパーツを組み合わせてひとつの機械を組み立てます。それに対して、半導体プロセスの延長上にあるMEMSでは、使う材料はシリコン系、または、一部の金属材料に限られており、その加工方法は、薄膜堆積、フォトリソグラフィー、エッチングなどに限定されます。さらに、半導体プロセスでは、最後の組み立て工程が無い代わりに、犠牲層エッチングによる構造体のリリース工程があります。半導体プロセス技術の基礎について知りたい方はこちらをご覧ください(→[[What is MEMS?/Semiconductor Processes]])。


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*犠牲層エッチング [#zbff3800]
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MEMSは半導体プロセスを用いていますので、下のレイヤーから上に向かって薄膜形成します。よって、犠牲層を先につくり、その上に別のレイヤーを重ねてプロセスを進めます。最後に、犠牲層だけを選択的に除去することで、構造体を可動構造にします。


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*MEMSプロセス材料の組み合わせ [#c4b89d28]
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MEMSでよく用いられる材料の組み合わせを左の表に示します。もっともクラシックな方法は、シリコン(単結晶シリコンまたは多結晶シリコン)を構造体にして、その下にあるシリコン酸化膜を犠牲層として除去する方法です。フッ酸を用いると、シリコンを残してシリコン酸化膜だけを選択的に除去することができます。他の組み合わせとして、有機物犠牲層の上の金属構造体もあります。最初の例とは逆に、シリコンを犠牲層として用いることもできます。

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*Silicon as a mechanical material [#l530fd66]
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実はシリコンを用いたマイクロ構造は、1980年代から研究されていました。左の論文(白いコピーの方)は、1982年に米国の研究者K.E.Petersen氏がとりまとめたSilicon as a mechanical material(機械材料としてのシリコン)というレビュー論文です((Kurt E. Petersen, "Silicon as a Mechanical Material," Proc. IEEE, vol. 70, no. 5, May 1982, pp. 420-457.))。この論文には、当時研究されていたシリコン製のマイクロメカニカル構造としてさまざまな形態と応用が紹介されています。当時のシリコンマイクロ加工技術は、KOH(水酸化カリウム)の水溶液による異方性ウェットエッチング程度だったのですが、下に見るように、実にさまざまな形状を加工することができます。しかも、現在MEMSの応用として工業化されているデバイスの原型が、この論文の中にいろいろと見つかります。

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*当時のシリコンマイクロマシン [#gd93c3c4]
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K.E.Petersen氏の論文に紹介されているシリコンマイクロ構造のほんの一部を紹介しましょう。まず左は、シリコンの異方性ウェットエッチング加工を利用して製作したインクジェット・プリンタ用のノズルです。圧電板が張り合わされており、その振動によってインクを吐出します。現在市販されているインクジェットには、複数のノズルが個別駆動できるように集積化されており、また、複数のヘッドを用いたカラー印刷が可能になっています。インクの吐出方法も、振動板の振動を利用したものや、熱膨張による泡の形成を利用したものがあります。

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左はシリコンウエハを異方性ウェットエッチング加工して製作したミラー型の光スキャナです。中央の四角いミラーを上下のサスペンションで保持してあり、対向基板上の電極に印加した電圧で静電引力を発生してミラーを駆動します。現在はで、マイクロミラー・アレイを利用した画像ディスプレィや、MEMSミラー型のバーコードリーダ、光ファイバスイッチなどが市販されています。

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これは、マイクロリレーです。静電気で電気的接点を開閉することにより、ON/OFF型のSPST(1入力1出力)のスイッチを形成しています。現在では、マイクロ波帯でも利用できるように入出力に導波路を接続したRF-MEMSスイッチが主流になっています。

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*基本プロセス① シリコン異方性ウェットエッチング(バルクマイクロマシニング) [#bbcd01b6]
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以降の節で、マイクロマシニングプロセスの基本を8種類紹介します。複雑なプロセスであっても、これらの基本プロセスの組み合わせで構成されます。また、プロセスは日進月歩していますので、ここで紹介した以外の方法もあるかもしれません。

シリコンマイクロマシニングの最もクラシックな方法は、強アルカリ水溶液(加熱)を用いた異方性エッチングです。シリコンウエハは単結晶であり、KOH(水酸化カリウム)などの水溶液を用いると(111)面を安定面とした異方性エッチングが可能です。左の図は、(100)基板にシリコン窒化膜などのマスク材料を被覆して、そこに空けた孔からシリコンをエッチングした様子です。面方位ベクトルの内積を考慮すると、エッチング面の角度が54.7°であることが計算できます。

電子顕微鏡写真は、シリコン基板の異方性エッチングを用いて加工した電磁駆動型のマイクロミラーです。ミラーそのものは多結晶シリコンでできています。その下の空間と、入出力光ファイバ(図示していません)を押さえるV溝は、シリコン基板の異方性エッチングで加工して形成しました。

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*基本プロセス② 基板貼り合わせ [#h33451dc]
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MEMSアクチュエータには、動く部分が必要です。動く部分の下を削って「リリース」することもできますが、広い面積はなかなかリリースできません。そこで、あらかじめ凹ませた基板を用意して、そこにアクチュエータ基板を貼り付けることで、動くスペースを確保することができます。アクチュエータが乗っていたもとの基板を除去する手法を、lost-wafer と言います。


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*基本プロセス③ 表面マイクロマシニング(アンカー付き) [#ucaecbb7]
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ポリシリコン(多結晶シリコン)を用いたMEMSプロセスで一般的な方法が、この表面マイクロマシニングです。犠牲層のシリコン酸化膜を先に形成しておき、その一部に孔空け加工しておきます(もちろん、フォトリソグラフィとエッチングによって)。その後に全面にポリシリコンをCVDなどを用いて堆積して、可動構造をパタニングし、最後に犠牲層のシリコン酸化膜をフッ酸水溶液などを用いて選択的に除去します。酸化膜を除去する際にも可動構造の一部分は基板に直接固定されているので(アンカー)、流れ去ることはありません。このため、リリースする構造の幅に細いもの、幅広のものがいろいろと混ざっていても、十分に時間を掛けてリリースすることができます。


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*基本プロセス④ 表面マイクロマシニング(時間管理犠牲層エッチング) [#l8f74b5d]
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最近ではシリコンの高アスペクト比ドライエッチング装置(DRIE)が普及したので、貼り合わせシリコン基板(SOI)の両面を加工したMEMSをよく見かけるようになりました。この場合には、広めのパターンがアンカーとなり、細いサスペンションなどは埋め込み酸化膜(BOX)層のアンダーカットによってリリースされます。ただし、犠牲層エッチングには時間管理が必要です。必要以上に長時間の犠牲層エッチングを行うと、アンカー部分までもリリースされることがあります。

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*基本プロセス⑤ 金属メッキによる構造体形成 [#b2d11807]
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SOIによる犠牲層エッチング構造に相当するものを、金属メッキによって擬似的に作ることもできます。基板の上にメッキの種(シード層)となる金属を形成し、フォトレジストのモールド(土手)の隙間に金属メッキする方法です。構造体の下部のシリコンを等方性エッチングによってアンダーカットすれば、金属メッキによるμ構造をリリースできます。ただし、シリコンの等方性エッチングには時間管理が必要です。

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*基本プロセス⑥ 金属メッキによる犠牲層と構造体の形成 [#hd0c78f1]
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金属メッキ構造の時間管理リリースを排除するには、エッチング選択性の異なる2種類の金属を用います。たとえば写真では、銅を犠牲層にして、ニッケルのマイクロ構造を形成しています。

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*基本プロセス⑦ SCREAMプロセス [#z5a48daa]
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単結晶シリコン基板そのものは割と安い(直径4インチで数百円/枚〜数千円/枚)のですが、貼り合わせSOI基板には一枚数万円のものがあります。よって、SOI基板を用いたMEMSでは、他の方法に比べてコスト高になります。この問題を解決する手法として、SOIではない普通の単結晶シリコン基板を用いる方法が開発されました(米国コーネル大学)。図ではまず、単結晶基板をDRIEで異方性エッチングしておき、その後、シリコン表面を熱酸化します。次に、エッチング底面の酸化膜のみを除去し、その部分から等方性エッチングを掛けることで、細いパターンをリリースします。これらの構造は、そのままではシリコン基板で電気的に繋がっているため、静電アクチュエータには適しません。そこで、もう一度かるく熱酸化して、その上から金属蒸着することで電気的に絶縁された構造を製作します。この方法は、single-crystal reactive etching and metallization の頭文字をとって、SCREAM プロセスと呼ばれています((Shaw, K.A. (Sch. of Electr. Eng., Cornell Univ., Ithaca, NY, USA); Zhang, Z.L.; MacDonald, N.C. Source: Proceedings. IEEE. Micro Electro Mechanical Systems. An Investigation of Micro Structures, Sensors, Actuators, Machines and Systems (Cat. No.93CH3265-6), 1993, p 155-60))。

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