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静電アクチュエータの説明の前に

静電マイクロアクチュエータは、MEMSの駆動機構として最も一般的に利用されています。ここでは静電アクチュエータが動く理由を考えてみます。すでに静電アクチュエータはご存じという方も、もう一度、いっしょに考えてみて下さい。

パラドックス問題を仕込んでいますので、画面を一度にスクロールせずに、すこしずつ下に移動しながら読むと良いでしょう。

MEMSの特徴は動き

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上の写真はすべて、当研究室で製作したマイクロアクチュエータです。基板の水平面外に動くものや、水平面内でうごくもの、動作が1次元のもの、2次元のものなど、いろいろと種類がありますが、これらは全部、印加電圧の静電引力によって発生力を得ています。

モデルは平行平板アクチュエータ

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静電アクチュエータの標準モデルは、上に示した平行平板電極モデルです。左のSEM写真の中央付近で左右に振動している物体が「可動電極」です。これは、基板から飛んで逃げないように、細いサスペンション(バネ)で吊られていています。また、その左右でときどき白く光っている部分が駆動電極であり、これらは基板上に固定されてます。白く光るのは、負の電圧を掛けたときにSEMの電子線が反射しているためです。

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静電駆動力は、左の式のように、平行平板電極の面積Sに比例し、初期値gから変位xを引いた現在のギャップ値の自乗に反比例、かつ、駆動電圧の電位差の自乗に比例します。今回の例では、可動電極はGNDに接地されていますので、駆動電極に印加した電圧がそのまま駆動電圧として働きます。このため、バネで吊られている可動電極は、駆動電圧の上昇とともに固定電極に向かって下向きに変位します。あるところまで電圧を上昇すると、静電引力がバネの復元力よりも大きくなって、可動電極が固定電極に吸い付いてしまいます。これを静電プルイン現象と呼びます。プルイン時に電極間に短絡電流が流れて故障しないように、途中に可動電極を止めるためのストッパーを入れることがあります。上のSEM写真で、固定電極に取り囲まれるように埋め込まれた凸型の構造がストッパーです。

問題1

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ではここで問題です。先ほどの図面をバネなどの部品を消して、構造を見やすくしました。この図の可動電極(上)と固定電極(下)を電線で繋いで等電位にしたとき、可動電極は先ほどと同じように動くでしょうか?

問題1の解答

答えは、「動かない」です。先ほどの式で分かるように、電極間の電位差がゼロになった場合には、静電引力は働きません。

shield.png

左の図面は、先ほどのSEM写真の構造の断面を示したものです。可動電極はサスペンションで支えられて宙に浮いていますが、固定電極はシリコン酸化膜(絶縁体)を介して基板に固定されています。可動構造が接地されているのは、基板(これも接地)との間に電位差を発生させないためです。もし可動構造に電圧を与えると、対向面積の大きな基板側に向かって吸い付く力が支配的になり、そのうち基板にくっついて動かなくなります。

問題2

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ではここで、第2番目の質問です。左の道具は箔(はく)検電器と呼ばれるもので、電線に高電圧が通っているかどうかを、金属箔の動きとして調べるものです。上部の金属電極と中央の金属軸、および、ガラス容器に内部の薄い金属箔はすべて等電位です。

でも、等電位なのになぜ、静電力が働いて箔が動いているのでしょうか? 先ほどの例では等電位の物体どうしは動かないはずでしたよね? なぜ、このような矛盾(パラドックス)が生じるのでしょう?

問題2のヒント

conductor.png

ここで、第2問のヒントを提供します。大学の教養課程で習った電磁気を思い出して下さい。静電場中に置かれた導体(金属)には以下の6個の性質があります。

① 導体内部には電場は存在しない
② 導体はどこでも等電位
③ 導体表面と電場の向きは直角
④ 導体表面の電場はσ/ε0
⑤ 導体は電場を遮蔽する
⑥ 電荷分布は導体表面のみ
これらのうち、どれかを使って第2問の矛盾を説明可能でしょうか?

あるいは、静電場のエネルギー密度(1/2)EDを用いて説明することはできますか?

問題2の解答

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まずは高校生レベルでの解説です。この箔検電器を静電場に置くと、上部の電極に誘導電荷(図では電子)が発生します。箔検電器電極はもともと電荷をおびていなかったので、ガラス容器内部の金属箔には逆の極性で、かつ、同じ量の正の電荷が取り残されます。この結果、正の電荷間にはたらくクーロン反発力によって箔が広がります。

つまり、等電位の電極間には静電「引力」は働きませんが、静電斥力(反発力)は働くのです。先ほどの式は、あくまでも静電「引力」を記述したものであり、斥力を説明するものではありませんでした。このことに気づいた人、いましたか?

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別の見方をしてみましょう。箔検電器の箔がちょうど90°開いた状態のときの電荷分布と電場の様子を表現したものが左の図面です。赤い曲線は、電場の向きを表しています。また、電場の線が立て込んでいる部分は電場が強いことを示しています。自然界には場のエネルギを減らす向きに状態が変化する原理がありますので、電極にはより広い角度で広がろうとする力が働く、という風にも説明が可能です。

問題3

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ではここで、最後の質問です。上で見てきたように、静電駆動力には引力と斥力がありました。しかしながら、MEMSで使われる静電アクチュエータは引力を利用したものが非常に多く、逆に静電斥力を利用したものはわずか数例です。なぜ、静電引力の方が、静電斥力よりも人気があるのでしょうか? なにか根本的に違う理由があるのでしょうか? 

静電引力も斥力も、どちらも電荷と電荷の間のクーロン力で記述できるものであり、単に電荷の符号が違うだけですよね? 同じ数式で記述できるのに、なぜでしょう?

問題3のヒント

gauss.png

第3問のヒントを差し上げましょう。左の図面は、無限にひろい導体電極の一部分を切り取ったモデルです。ガウスの法則によると、この電極の回りには、図中の式で表されるような電場が発生します。特に、電場の大きさが電極からの距離に依存しないことを注意して下さい。これをみて、静電引力の方が有利な理由が分かりますか?

問題3の解答

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答えは左の図面にあります。電場の力に逆らって電荷を移動したときの仕事が「電位」であることを思い出して下さい。左側の静電引力アクチュエータの場合、電極間の距離は数μm程度と非常に小さいので、電位差は小さくなります。一方、右側の静電反発力アクチュエータの場合には、遠く離れたGND電極から正電荷を運んでくる必要があるので、静電引力に比べて充電のための電圧が非常に高くなります。つまり、問題1の構成では、電圧を十分に高くすれば動きますが、静電引力で動かしていたときと同程度の電圧であれば、静電斥力は無視できるほど小さい、というのが正しい説明でした。

同じ大きさの静電引力と静電斥力を発生するには、符号が同じか、あるいは、符号が反対の等しい量の電荷を充電すれば良いのですが、静電反発力を得るための同種の電荷を充電するためには、より高い電圧を必要とします。よって、駆動電圧が高いという理由で、静電斥力型のアクチュエータはあまり使われません。

まとめ

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しかしながら、十分に高い電圧を得られるのであれば、図で示すように驚くべき静電反発力を発生することが可能です。図中の金属球体は、バンデグラフ(Van de Graaff)起電機と呼ばれる装置です。球体を支える柱の回りで、絶縁体のベルトが回転しています。このベルトを帯電させて、球体の内部まで運び、そこで回収することでいくらでも電荷を溜めることができます(球殻の表面に発生した電荷は、球殻内部には電場を形成しないことを思い出して下さい)。ただし、電荷が溜まりすぎると、そのすぐよこの小さい方の球電極との間で放電します。この実験に参加した人は、もちろん、体を通って電流が流れないように、絶縁体の台の上に立ってこの電極に触っているわけです。

このように、MEMS静電アクチュエータの駆動機構を理解するためには、教養学部の電磁気の基本が必要でした。静電駆動以外の、たとえば電磁駆動、通電加熱駆動、圧電駆動などでも、それぞれ、電磁誘導・ローレンツ力、熱伝達方程式・熱膨張、誘電体中の電場・圧電現象などの基礎的な理解が必要です。


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Last-modified: Sat, 09 Jul 2011 15:32:57 JST (2206d)